ナルト、25

帰宅してストーブの前でうずくまっていたらいつの間にか眠っていた。

とにかく疲れていたようだ。

なぜこんなことになったのか、検証を始めよう。

 

事件は「長濱ねるさんの写真集お渡し会」が決定したことに端を発する。

「なんでも強気にいかないと当たらないんですよ!」と豪語しているチェキ王の言葉を胸に刻んで生きている私は、早速行動を開始した。

まずは、福家書店Web会員に登録しなければならない。

 

私もお渡し会は初めてだったので教えてもらったのだが、お渡し会には第1部と第2部があり、さらに「サイン入り」と「サインなし」の写真集があるそうだ。

Web会員枠と一般枠が用意されているので、申し込みは合計4つの枠でできることになる。

 

会員登録に3000円強かかるという情報もその時の私には何の歯止めにもならず、躊躇もためらいもなくスムーズに必要情報を入力し華麗にクリックを決める。

冷静に考えればそれだけで普通の写真集2冊買える値段だ。

 

「これで当たった」

 

世の中に2枚~3枚しか存在しないチェキを引き当てることに比べれば、1000枚も存在して枠が4つもあるなんてカフェラテのカフェ抜きくらい甘い話だ。

私には確信があった。

よって、当選通知が来る前に飛行機の予約をするのも至極当然のことなのだ。

 

申し込みをしてから1週間ほど、その存在すら忘れるほど日常に戻っていた頃その知らせは届いた。

 

「抽選の結果、落選となってしまいました」

 

は?

何の手違いだ?

何抽選とかしちゃってるんだ?

僕はもう当たってたはずだろ?

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もう飛行機も押さえてしまった。

早割はキャンセルしても結局同額のキャンセル料がかかる。

私は何をすべきだろうか。

灰になりかけていた私に仏(の皮を被ったオリーブ)がすり寄ってきて復活のお経を唱えた。

 

「どうせ来るならレンタルキッチンでも借りて料理でもしませんか?」

 

そう、すべてはこの一言が原因なのだ。

お渡し会に外れたのに飛行機で東京に行ってヲタクをもてなして帰ってくる、今考えても意味がわからない謎のイベントの開催が決定した瞬間である。

 

そこから私にはメニューを決めるくらいの仕事しかなかったのだが、主催者の焼け石にオリーブオイルさんは会場の選定から人数の集約などまで大変なご苦労されたことと思う。

ごくろう!

 

さて、遠征前日に最も悩んだのが調味料の問題だ。

調味料は意外と種類が多いし、意外と値段が高いし、使う量もまちまちだし、自前で持ってった方が都合がいいのだ。

しかし、持って行くとなると一つ一つボトルに詰め替えたりする必要があり、極めてめんどくさく、且つ極めて邪魔くさい存在であった。

かなり大きめのキャリーバッグの2/3を占拠する調味料を詰め込み終わったのがおそらく深夜2時頃。

もはや当日だ。

 

少しは眠らないといけないと思い、仮眠を取って起きたのが7時10分。

完全に当日だ。

なんなら予定より1時間以上寝坊している。

逆算のシミュレーションでは

10:30発→9:30空港着→8:30バスライドン→8:00出発

で間に合うはずだった。

目覚めた時点でキャリーバッグには調味料しか入っていない。

急いで身支度を調えて必要な物を詰め込んでも8時出発はきわどい。

 

「バスがダメなら車で行けばいいじゃない」

 

松村沙友理さん(米)が残した名言集の一つ「妥協じゃないです、方向転換」を思い出し、軽やかに進路を変更する。

車なら1時間もかからないはずだ。

まだ余裕がある。

なんならゆったりシャワーを浴びる時間さえある。

 

身を清め、お泊まりセットを用意して、家を出たのが8:30。

駐車場まで少し歩いて愕然とする。

ここは雪国だと言うことを完全に失念していた。

そこまでの大雪というわけでもないが、しばらく動かしていないマイカーには10cmを超える雪が積もっている。

 

雪国にお住まいでない紳士淑女には「雪なんてワイパーでどかせばいいじゃない」とお考えになる方もいらっしゃるかもしれないので一応説明しておくが、雪の質によってはワイパーで持ち上げられない場合もあるし、一番厄介なのはフロントガラスの雪だけを落として走っていたらブレーキの衝撃で屋根の雪が落ちてくることである。

運転中、赤信号で停車したときに雪が落ちてきて前が見えなくなりワイパーも動かなくなるという恐怖体験をしたことがある読者も多くいるのではないだろうか。

車内が一瞬で闇に包まれる恐怖。

 

そんなことにならないように、車の雪はある程度落としておく必要があるのだ。

急がば回れ

猛烈な勢いでシャカシャカシャカシャカ雪を落とし、車に乗り込み、エンジンスタート。

 

時計に目をやると時刻は8:45。

空港まで約40分。

いける!と思ったその目の端に映り込む「エンプティ」の表示。

絶望に染まる車内。

 

最寄りのセルフスタンドにピットインし、カードを使い最速給油。

5分で給油を終え、時刻は9:00。

路面はつるつる、右折待ちでゆるゆる進んでいる時でさえABSが発動するような危険さ。

ワイルドだ。

高速に乗り込み、空港に向けてかっ飛ばす。

もちろん法定速度はしっかり守るぜ。

ハードボイルドとコンプライアンスは矛盾しない。

 

想定通り40分で空港周辺に到着。

いける!と思ったその矢先、空港周辺が年末恒例大工事中で駐車場の入り口が封鎖。

どこから入るのかわからず、駐車場周辺をぐるっと一回りして一週したあたりでようやく入り口を見つけ駐車場にイン。

 

もはや空港マスターと言っても過言ではないほど慣れ親しんだ空港だ。

どこにどの会社のカウンターがあるかくらいは覚えている。

スカイマークのカウンターに一番近い場所に車を止めたのが9:50。

バカみたいにでかいキャリーケースを引きずり、自動チェックイン機へと向かう。

こちらも慣れ親しんだ機械だ。

自動販売機でコーヒーを買うかのごとく、タッチパネルを操作し発券。

操作時間1分。

ギリギリで搭乗手続き完了。

 

バカみたいにでかいキャリーバッグをお預けするために隣のカウンターへ。

 

スタッフ「お荷物の中に、ライターマッチ、モバイルバッテリー、液体類などはございませんか?」

私「はい、ございませ

ピーーーーーー!

スタッフ「モバイルバッテリー入ってますね?」

 

ざっと詰め込んだ荷物の中に紛れこんでいたモバイルバッテリー、許さない。

ちなみに、液体類も山のように入ってる。

木の葉を隠すなら森の中。

ウソは重ねるもの。

 

そんなこんなで荷物を預け終わって10:00。

お土産を買って保安検査場を通り抜けたらすべてのお客様の機内へのご搭乗が始まっていた。

あぶねえ。

 

かくして私はロシア領を脱出して花の都TOKYO2017に向けて飛び立ったのであった。

 

 

 

(米)当初「橋本奈々未さん」と表記しておりましたが、「松村沙友理さん」とのご指摘がありましたので、訂正してお詫び申し上げます。