ニホンミツバチ、26

あれから1週間が経った。

1週間とは思えないくらい遠い昔の出来事に思える。

時間の進み方は平等ではなく物体と観測者の相対速度によって規定されるというアインシュタイン相対性理論を初めて聞いたときは脳がパニックになったものだ。

極めておおざっぱに説明したが、知りたい人は理系の人に聞いてみるといい。

私はゴリゴリの文系だ。

 

さて、前回のブログでは、なんと北海道から脱出すらしていなかったわけだが、今回はいよいよ東京に上陸したところから始めよう。

 

もはや慣れ親しんだ羽田空港国内線第一ターミナル。

スカイマークLoverの私は、常にこのターミナルに降り立つ。

ちなみに、第2ターミナルは全くの未開の地だ。

決して足を踏み入れてはならぬと心に誓っている。

職員旅行の帰りに迷い込んでものすごい距離を走らされた時からそう心に誓っている。

 

手荷物グルグルのところで荷物待ちをしていると、渋谷で暇を持てあましたヲタクから「ご飯でもどうですか?」というお誘いが入る。

朝ご飯を取る時間もなく、機内で食べるものを買う時間もなく、空腹は空腹だ。

空港内で手早く済ませてしまおうかと思っていたのだが、「夕方まで暇なので

」というお誘いで、とりあえず渋谷へ向かうことになった。

最後の最後に現れた自分の荷物を手に取り、空港ロビーへ向かう。

 

空を飛んでいる間中、気がかりだったことを確かめるために、キャリーバッグを開けてみることにした。

案の定、香ばしい臭いがする。

醤油の暴走だ。

ナイロンのマイバッグに入れてバスタオルを詰めて対策していたのだが、バッグの方に穴が空いていたようだ。

不幸と醤油は想定外のところから飛び出してくるものだ。

 

さて、醤油の不幸の反動か、運良く品川までほぼノンストップのすごい速い電車(それが特急なのか快速なのか空港特別仕様なのか、私にはわからないのだがとりあえず速い)に乗ることができ、品川で山手線に乗り換えて渋谷まで向かう。

キャリーバッグの騒がしいガラガラ音を響かせながらハチ公前に現れたおじさんは、まさに田舎者の代表といった風体で恥ずかしさこの上なかったが、ハチ公前にいるような人間はだいたいが田舎者だ、気にすることなどないのだ。

 

無事にオタク仲間とも合流でき、ガラガラ音を響かせながら食事へと向かう。

「何が食べたいですか?」という問いかけに思わず「ラーメン」と答えてしまう当たり、ラーメン部の罪は深いといわざるを得ない。

連れて行ってもらったのは「どうとんぼり神座」というラーメン屋さん。

チャーシュー煮玉子ラーメンはとてもあっさりしていて、間髪入れずにすすりたくなる味で、空腹の胃を余すところなく満たしてくれた。

オタク仲間がアップしたラーメンの画像から「かむくらか」と瞬時に店を特定するラーメン部の瞬発力にも脱帽だ。

 

腹も満たされて一息ついたところで、渋谷TSUTAYAで行われている推しメンのパネル展示を見に行くことにした。

ガラガラ音を響かせながらシブツタに入店した我々。

推しメンのサイン入り特大パネルをぼんやりと眺めつつ、改めて突きつけられる現実。

 

「なぜ私はここにいるのか」

 

本来は推しメンのサイン入り写真集を推しメンから直接渡されるはずだったのに、

現実は二次元のパネルに既に書かれているサインを眺めるだけ、

おかしい、現実はおかしい、こんな現実は間違っている、!

理想と現実の乖離が人間としての大事な物を勢いよく壊していく。

こうして過激なテロリストは生まれていくのだ。

 

そうはいっても、私のような何も持っていない弱く小さき者は突きつけられる現実にただ震えるしかないのだ。

ガタガタ震えガラガラ音を立てながら渋谷の街中を歩く我々。

見かねたオタク仲間が駅の長い階段でキャリーバッグを持ってくれた。

さながら付き人のようだ。

後ろにいた夫婦に「あの人たち、どういう関係なんだろうね...?」みたいなコソコソ話をされながら親切なオタクと別れ、一人渋谷の街から会場のある虎ノ門へと移動する。

 

遠征にも慣れ、東京の電車にもわりとスムーズに乗れるようになったとはいうものの、所詮は特定の場所(主に横浜、幕張、新宿渋谷近郊)にしか行かないオタク。

レンタルキッチンがあるという「虎ノ門」という場所がどういう場所なのかすら理解していない。

とりあえず「行けばわかるさ!」という猪木スピリッツで虎ノ門の駅に降り立つ。

そこで初めてGoogleマップを開き、最寄り駅が一つ向こうの神谷町だったことを知る。

そういうとこだぞ、!

 

とはいえ、歩いて行けない距離でもないので、再びガラガラ音を立てながら虎ノ門周辺を探索する。

 

歩けども。

歩けども歩けども。

 

ビル。

 

都会とはかくもビルばかりの場所なのか。

ビル群収容人口に対する生活雑貨店の比率が明らかにおかしい。

都会の人はどこで買い物をするのだろうか。

街角にはスーパーがあるものという古き良き時代は当に過ぎ去ってしまったのか。

 

そんなビル街を抜け通りを歩いていると小さな八百屋さんを見つける。

Googleマップは明らかにその八百屋さん付近を示している。

 

「・・・?八百屋さんがレンタルキッチン???」

 

その場でお野菜も調達出来てすぐにお料理も作れてまぁ便利!

いや、そんなわけなくない?

 

脳内会議もひとしお、レンタルキッチンのホームページを見てみると、どうやら八百屋さんと和食屋さんの間の隙間のビルを上るということらしい。

私のGoogleマップは、えてしてこういう案内をしがちだ。

だいたい建物の裏口の方を表示したり、田んぼのあぜ道を走らされたり、目的地が国道の中央分離帯だったりする。

育て方を間違ったのだろうか。

 

レンタルキッチンの場所も把握し、ようやくここからが本番というところだが、続く。